歌あそび
いとしいひと
目を引く人だった。




美人だね―――そう言ったら、ものすごく嫌な顔をされた。
褒められるのが嫌いらしい。

でも、美人だ。
美女とは言ってないよ?

「そういう問題じゃない」

あ、拗ねると可愛い。
思わず頭を撫でようとして、腕を取られた。

びっくり

なんて大きい手だろう。
自分の腕が細く見える。
思わずまじまじと見ていたら、素っ気なく離された。

「変なオンナ」

どうやらそれが第一印象になったらしい。





「なに描いてんの?」

「空だよ」

「なんで、みどり?」

「だって、春だから」


あさみどり

はるたつそらに

うぐいすの

はつこゑまたぬ

ひとはあらじな


春を探す

色を重ねる

光の色

緑の色

追いかける

空の色


横に座った彼の顔を見る。

「また逃げてきたの?」

答えずに睫毛を伏せた。
長いそれが、影を落とす。
ああ、綺麗だな。

「描いていい?」
「…好きにすれば」

何にしよう?

少しだけ考えて。
彼の手を描いた。

それはとても大きくて。
骨張った指は長くて。


私の頰も、胸も。

彼の手の平の中に小さく納まる。
それはとても温かくて優しくて。

生まれてこの方感じたことの無い
不思議な気持ちをかき立てる。

淡い緑を思わせる
春の空のような。
言葉に出来ない、何か。


「これ、何て言うんだろう」

お腹の上にある彼の手の
小指の下側にぽこりと出ている
その場所を
くりくりと人差し指の腹で
撫でてみる

そこだけ皮膚が薄いのか

くすぐったいような
やるせないような顔に

くすり、と、笑みが浮かんで。
その事に彼が怪訝な顔をしていたから。


くるりと体ごと向き直る。

ムダな肉の無い
でもしっかりとした首筋に腕を回して。
日向の香りがする耳元に鼻を寄せる。
肩甲骨を包む手の平が温かい。

「湯たんぽかよ」

ぴったりと触れあった胸越しに響く声。
高くもなく低くもなく。
でも胸を震わせる心地良い音。

ああ―――なんて。

頰に頰をすり寄せて。
額を合わせるように顔を覗き込む。
少し色素の薄い、その瞳に映る
自分の顔に零れているもの。


目を細めて
唇を寄せた。


言葉の代わりに、伝えるように。















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