歌あそび
おもわぬひと
思ふ人

思はぬ人の

思ふ人

思はざらなむ

思ひ知るべく





腰を落として、はあ―――と息を吐いた

一番奥まで銜え込んで
きゅう……と
もっと強く彼を感じられるように
力を入れて締め付ける

胸の膨らみを突き出すように
背中を弓形に反らせながら
“それ”を探して
擦りつけるように腰を動かす

もう少し
あと少し―――

ああ……と
吐息を漏らした瞬間

ぐるりと

持ち上げられた躰が回転して
滑らかなシーツに投げ出される

膝が胸に当たる位に
足を折り曲げられて

覆い被さる熱くて重い身体に
激しく揺さぶられながら目を閉じた



よくいるよね、そういうタイプ
そう言って笑った

彼女より部活優先
記念日とかやっとれんし、て

全然平気
だってカッコいいから許す

サークルじゃ無くて
体育会バレー部
インカレ狙う位強いんだから
部活優先なのも当たり前

お弁当やドリンク
タオルを用意して
試合を観に行くだけでもいい

キュッ―――と床を鳴らして
高くジャンプした彼が

しなやかな肢体を
バネのように撓らせて
ボールを叩きつける

その姿に胸が高鳴る

ああ、早く
その逞しい腕で抱き締めて欲しい

叶うことなら

チームメイトに向かって弾ける
飾り気のないその笑顔も欲しいけど

でも仕方ない
彼はそういう人だ―――と

そう思っていた






“……君っ”

思わず名前を叫んだのは

彼の指が
彼女の頰に触れる寸前

人気の無い教室で
向かい合って
愉しげに話していた

同じゼミのヤツだと言っていた

いつもジーンズにパーカー
学校にいる間はその上に作業服

女の子にしては背が高くて
顎のラインで切った黒髪
化粧っ気の無い顔

彼の元カノ達とは正反対で
つまり私とも正反対

だから

だけど

頬杖をついた彼は

少し意地悪な顔をして笑い
でも次の瞬間には
蕩けるように優しく微笑み

その顔のまま
彼女の頰に指を伸ばした

彼女の事を、彼は

友達だと言わなかった
友達だとは言わなかった
だから友達じゃないのだ

彼にとっては

振り向いた彼女が
無邪気に微笑む

じゃあね、と言って

立ち上がった彼女の腕を
彼が掴んだ

キリ―――…と

胸が撓って
唇を噛み締める

だっていつも
それをするのは私の方

もう少し

もう少しだけ
一緒にいたいと

ねえ気付いてないの?

彼女が今してる顔と
いつもあなたがしてる顔が
同じだって事に

だからわかった



彼の動きが速くなる

置いていかないで
そう思って
きゅ……っと力を入れても
きっと彼は気付かない

もしこれが彼女だったら

その綺麗な瞳で
胸を震わす低い声で
形の良い唇で
無骨な太い指で
力強い腕で

甘く優しく蕩けるような
この上ない歓びを―――


ああ―――と

堪えきれずに
声を上げてしがみつく

許さない
そんなこと
許さない

心の中で希う
それは
呪いの言葉



思っても

思ってくれない

思い人の

思う人


彼を好きにならないで
そうすれば

きっと

彼にもこの気持ちが
わかるはず









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