イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
「鈴木さんに自分でやってくださいって、ハッキリ言った方がいいよ」
入社六年目の木村さんが、後輩の私のことを気遣ってくれることはありがたい。けれど、ベテランの鈴木さんに今さら『自分でやってください』とはとても言えない。
「そ、そうですね」
木村さんに曖昧に返事をして作業に取りかかった。
預金口座の申し込み用紙や印鑑届、名義や住所の変更の諸届など、ファイリングする書類の数は多い。あたふたと作業していると、木村さんがファイルを棚にしまった。
「柴田さん、お先に」
「はい。お疲れさまでした」
作業が終わった木村さんに挨拶を返す。
私はいったい何時に帰れるのかな……。
ファイリング作業が終わる目星がつかず、口から大きなため息がこぼれ落ちた。そのとき、書庫の出入り口付近がざわつき始めた。
「安藤(あんどう)くん!」
一オクターブ上がった木村さんの声が書庫に響く。
「お疲れさまです」
定時を過ぎた書庫に姿を現したのは、同期の安藤朝陽(あさひ)。
襟足とサイドはスッキリと短く、やや厚めの前髪が特徴的なマッシュショートヘアが小顔の安藤によく似合っている。くっきりとした二重と通った鼻筋、少しぽってりとした唇がバランスよく配置された顔は、アイドル並にイケメンだ。