イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
それにしても物が少ない……。
これが安藤の部屋を見た第一印象。質素という意味ではなく、整理整頓が行き届いた気持ちのいい空間だと感じた。
「すごく綺麗にしているんだね」
蓮くんの背中からリュックを下ろし、安藤に声をかける。すると安藤が恥ずかしそうに頭を掻いた。
「実は昨日、必死に掃除した。いつもはもっと散らかってる」
「えっ、そうなの?」
「まあな」
安藤の意外な告白に驚いたのは、仕事も家のことも完璧にこなすイメージがあったから。
安藤も万能ではない。その事実が妙にうれしい。口もとが勝手に緩んでしまうことを実感していると、安藤が私から視線を逸らした。
「蓮。手洗いうがいしようか」
「うん」
急に話題を変えたのは、照れ隠し? 恥ずかしがる安藤は新鮮だ。
もっと安藤のこと、知りたいな……。
買った肉や野菜を袋から取り出しつつ、そんなことを考えているとハッと気づく。安藤はただの同期。これ以上、安藤のことを知ってどうするの?と……。
変な私……。
自分の考えがよくわからずに首を傾げた矢先、安藤と蓮くんがリビングに戻ってきた。
「ほのかちゃんも、てあらいうがいしてね」
「はい。わかりました」
蓮くんに初めて名前を呼ばれたことがうれしくて、安藤のことをもっと知りたいなどという不可解な思いは、すぐに消え去った。