白馬の悪魔さま 【完】番外編追加
そんな私の髪に、男の指先が触れた。
「それで、芙美もしたの?あーいうの」
「……だから、若さです」
なんでそんなこと、この男に話さないといけないのだろう。
「羨ましいねー」
「……椿社長だって、したことあるんじゃないですか?」
「ん?」
「私の前に乗った女性と」
別に、嫌味とかじゃない。事実だ。
「……いや、それはないよ」
「え?」
振り返ると、思ったよりも近くで視線が重なった。
「そんなこと、あるわけない」
まるで珍しい生き物でも見るように、椿社長がまじまじと私を見る。
「だから、お前が一番」
「わたし?」
「観覧車で、キス」
そう言って唇の端を上げた男が、ゆっくりと瞼を閉じていくのを、私はじっと見ていた。その瞬間を待つみたいに。
小さな箱の中で、唇がゆくりと重なっていく。
僅かな隙間から漏れだす熱に、目の前の黒いコートをギュッと握る。触れる舌が、心地良い。
私にはもう、止められないかもしれない。