今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
すぐ背後から名前を呼ばれて振り向くと、そこにはいつのまにか怜士が立っていた。
大学病院で見かける時と同じロング白衣を纏い、その下はスーツのジャケットを脱いだ装いだ。
「迷わず来れたか」
「はい。でも、こんなビルに病院が入っているとは驚きました」
「なんだ、その荷物は」
沙帆が自分の荷物と別に持ってきていた大きな手提げを目に、怜士は眉根を寄せる。
「あ、仕事道具を見繕ってきました」
大したことではないといった様子で沙帆が答えると、怜士は即座にその荷物を沙帆から取り上げた。
「わざわざ持ってこなくても、大体のものならここにも用意がある」
そう言いながら沙帆の背をとんと押し、「行くぞ」と病院内を奥へと進んでいく。
「あ……なるほど。確かに、そうですね」
「いや、まさか担いでくるなんて思ってもみなかかったから、悪かった」
「どうして怜士さんが謝るんですか? 私が確かめもしなかったのが悪いんですよ」