今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
まだそこまで情報を与えていないのに、怜士は即答で名前を言い当てる。
その呼び方が下の名前を呼び捨てで呼んだことに、沙帆はまた掃除の手を止めていた。
「何を言われた」
さらさらとペンは動かしたまま、怜士は問いかける。
「あ、いえ、大したことは……怜士さんとどういう関係なのかとか、怜士さんを誑かさないでとか」
「結構すごいこと言われてるぞ、それ」
やっぱり書面に目を落としたまま、怜士の横顔には微笑が浮かぶ。
「少し、驚きましたけど……でも、きっと怜士さんの患者さんなんだろうなって」
「去年オペをして、それから事情があって主治医になったんだ」
ペンを置いた怜士は、次にデスクの引き出しからカッターナイフを取り出し、未開封の紹介状の封を切っていく。
「事情……ですか」
「先天性心疾患の難病で、普通の子どものような生活を送れないんだ。じきに、心臓移植のオペをすることになると思うが」
「じゃあ、入院生活も長いんですね……」
「本来なら、高校に通っているはずだが、普通の人間が当たり前にする日常生活すらも心臓に負担がかかるからな」