今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
さっきまで沙帆と同じくずぶ濡れだった姿は、初めからそうであったかのようにきちりと乱れがない。
混乱していた沙帆は、あの時の記憶が定かではない。
でも確か、濡れてしまった先ほどの鷹取の格好も、今見ているスーツのジャケットを脱いだシャツにベストという姿だったとなんとなく記憶している。
仕立てのいいネイビーのスーツ。
身長があり、スタイルがいいからスーツ姿が格別だ。
あの人にお姫様抱っこで運ばれたと思うと、沙帆は改めて顔が熱くなるのを感じた。
「あの、シャワーありがとうございました」
沙帆のかけた声に、鷹取は手元の操作を終わらせ、ゆっくりとした動作で振り返る。
改めて目が合って、沙帆はその端正で美しい顔立ちに息をのんでいた。
緩やかに流れる黒髪と、意志強く見える切れ長の目。
その瞳に映されるだけで、怯んでしまいそうになる凄みがある。
「気分は悪くないか」
「え……はい、それは大丈夫かと」
沙帆に向かって近付いてきた鷹取は、そっとネイビーのワンピースの背中に触れる。
沙帆が肩を震わせたのを気にする様子もなく、背を押してソファーへと連れていった。