今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~


車椅子に乗った咲良と、それを後ろから押す怜士。

咲良は足元にサーモンピンク色の膝掛けをかけ、肩から白いポンチョを羽織っている。

怜士の方は普段病院で見かける白衣の姿だ。


「でも、いちょうってあんなに綺麗だと思わなかった!」

「そうか? 車椅子から座って見上げてるから余計にかもな」


どうやら病院の前のいちょう並木でも散歩してきたらしい会話だ。

周囲に人やエンジンのかかる車がないため、話し声がよく聞こえてくる。

咲良の表情は晴れ晴れとしていて、可愛くキラキラして沙帆の目に映る。

この間、尖った目をして敵対宣言をしてきた人とは思えない。


「違うよ、怜士先生とだからに決まってるじゃん。好きな人と見るものは格別なんだよ」

「はいはい、ありがとなー」

「あー、また流すー。本当に本当だからね!」


沙帆が近くで会話を盗み聞きしているとも知らない二人は、会話に花を咲かせながら沙帆の隠れる車の横を通り過ぎていく。

完全に二人が離れていってから、沙帆はずるりと車から落ちるように外に出てきた。

< 170 / 247 >

この作品をシェア

pagetop