今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
車椅子に乗った咲良と、それを後ろから押す怜士。
咲良は足元にサーモンピンク色の膝掛けをかけ、肩から白いポンチョを羽織っている。
怜士の方は普段病院で見かける白衣の姿だ。
「でも、いちょうってあんなに綺麗だと思わなかった!」
「そうか? 車椅子から座って見上げてるから余計にかもな」
どうやら病院の前のいちょう並木でも散歩してきたらしい会話だ。
周囲に人やエンジンのかかる車がないため、話し声がよく聞こえてくる。
咲良の表情は晴れ晴れとしていて、可愛くキラキラして沙帆の目に映る。
この間、尖った目をして敵対宣言をしてきた人とは思えない。
「違うよ、怜士先生とだからに決まってるじゃん。好きな人と見るものは格別なんだよ」
「はいはい、ありがとなー」
「あー、また流すー。本当に本当だからね!」
沙帆が近くで会話を盗み聞きしているとも知らない二人は、会話に花を咲かせながら沙帆の隠れる車の横を通り過ぎていく。
完全に二人が離れていってから、沙帆はずるりと車から落ちるように外に出てきた。