今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~


突然の樹からの祝福の言葉に、沙帆は面食らったような表情を見せていた。

けれどもすぐににこりと微笑み「ありがとう」と答える。


「ごめんね、お兄ちゃんに直接話しにいかなくて」

「いや、色々と忙しいんだろ? わかってたし、大丈夫だよ」

「うん……」


開けたドアを後ろ手で閉め、樹は「でも……」と息をついた。


「いよいよ沙帆も結婚か。やっぱり、兄ちゃん的には寂しいもんだな」

「またまた、そんなこと言って」


この先、結局婚約破棄になったというシナリオがすでに用意されている沙帆にとって、寂しいと言いながらも祝福してくれる兄の姿は、胸を釘でチクチク刺すような痛みを起こさせた。

子どもの頃から家族の中で一番一緒にいた樹に、沙帆はなんでも相談してきた。

頼りにしてきたし、樹も沙帆のことをいつでも大事にしてきてくれた。

そんな唯一無二の大切な兄に、こんな重大な嘘をついている自分には嫌悪感しかない。

全てが落ち着いたら、樹には本当のことを告白したいとも沙帆は思っていた。

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