今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
その日の夜――。
沙帆は実家へと訪れていた。
怜士とマンションで暮らし始めてから、使わないと持ち出さなかったものが結局必要になって取りに帰っている。
少し太めの巻き髪用のコテに、たまに趣味でする塗り絵に使う七十二色セットの色鉛筆、それから、よく読み返すお気に入りの本たち――。
久しぶりの自分の部屋で本棚に向かっていると、部屋の扉がノックされすぐにドアが開かれた。
「沙帆?」
「お兄ちゃん、どうしたの? 珍しいじゃん」
顔を見せたのは、この家には住まない樹だった。
スーツの姿で、病院帰りの装いだ。
「帰りがたまたま一緒で、母さんを送ってきたんだ。沙帆が来てるかもってさっき聞いたから」
実家とはいえ、今は家を出ている身。
今日は少し家に帰ると、職場を出た時に千華子にメッセージを入れておいたのだ。
「そっか、それで」
「それより、婚約、したって聞いた。おめでとう」