今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
これは一体どういうことなのか。
和やかに両家の親同士が言葉を交わす中、沙帆は混乱の谷底に落とされたような気分だった。
(いや、待ってよ。見せられた写真、全く別人だった。まさかお母さん……見せる写真間違えたとかって話⁉︎)
昔から千華子には、肝心なところでとんでもないミスをする抜けている部分がある。
子どもの頃は、兄、樹とお弁当や体操服が逆に入っていたり、参観日を間違えて学校の教室までやって来てしまったり、そんなことはよくあったくらいだ。
目の前の状況からして、まさに理由は千華子の〝ドジ〟としか思えなかった。
そうなると、良嗣が〝男前〟だと言っていたのは繋がるし納得がいく。
「鷹取怜士(れいじ)です」
「……三角、沙帆と申します」
この席で初めて会うわけではないのに、改まって名乗るのは気恥ずかしかった。
しかし、落ち着かない沙帆とは対照的に、怜士はどっしりと構えている。
それどころか追い打ちをかけるように、微かに意味深な笑みを浮かべてじっと沙帆を見つめてくる。
居たたまれない状況に、用意された芸術的な料理を見つめ、これはどう切ったのだろうかとか、余計なことに必死に想像を巡らせていた。