今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
自分に対して何かと過保護な兄に、怜士の出した政略結婚の話はできないと瞬間思った。
このまま流れる可能性が高いことで心配をかけたくない。
「何か心配事があるなら話してみろよ」
「心配事というか……ほら、お見合いって、始めは相手のことよくわからないし、話を進めるかどうかなんて、決められないというか」
当たり障りのないことを言って誤魔化してみる。
すると樹は「俺の知る限りの話では……」と、沙帆がお願いしたわけでもないのに怜士の話をし始めた。
「なかなか優秀な奴だった記憶はある。今でも覚えているのは、レポートの提出があったとき、鷹取のレポートが紛失したことがあったんだ。それが結構単位には重要なレポートで……そしたら『全部頭に入ってるので、口頭で構わないですか』って教授にさ。それを目撃した奴らの話だと、困った様子もなく淡々と口頭レポートしてたっていうから、当時話題持ちきりになったんだよな」
昔を思い返し、樹はグラスを傾ける。
そして付け足すように「そのあと、紛失したレポートは同じ授業を取ってた奴に盗まれたのがわかったんだけど」と、とんでもないことを言った。