今夜、夫婦になります～俺様ドクターと極上な政略結婚～

ぺったりと張り付く衣服。

眼下で揺れる水面を目にしてやっと、誤ってプールに落下した事実を受け止めていた。

徐々に周囲のざわめきを感じ始める。

こんな騒ぎを起こして、どうしようか。現実的なことに動揺し始めた時、ずぶ濡れな身体がふわりと宙に浮いた。


「あっ……！」


背と膝の裏を支えて横抱きにされ、いわゆるお姫様抱っこという体勢になっていた。

ハッとして見た目の前の顔に、沙帆の鼓動が跳ね上がる。

自分と同じくずぶ濡れな、かき上げられた黒髪。

奥二重の切れ長な瞳は、真っ直ぐと進行方向に向けられている。

横から見る鼻筋は高く綺麗で、美しい横顔にこんな時だというのに沙帆はすっかり見惚れてしまっていた。

ライトアップされた雰囲気のあるプールサイドで、突然着衣のまま水没した二人に客の注目は瞬く間に集まっていく。

沙帆を抱きかかえたまま、彼は颯爽とホテル内へと歩みを進めていった。