今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
「あ、あのっ」
ホテル内へと入ってからやっと、沙帆は自分を抱きかかえる彼に声をかけた。
しかし、足を止める様子もなければ、沙帆に目を合わせる素振りもない。
横から見る瞳にどこか冷徹な色が窺えて、更なる動揺が胸に広がる。
「すみませんでした、もう、大丈夫なので、おろしてください」
「こんなずぶ濡れで、この中を歩き回るつもりか」
「えっ……それは」
確かにここでおろされたところで、沙帆に行く宛はなかった。
ホテルのスタッフに頭を下げて、場所を借りて濡れた自分をどうにかするしかない。
プールに来たからタオルは持参してきたけど、着替えはさすがに持っていないし、濡れた服ではタクシーを呼んでも乗車拒否されてしまいそうだ。
そこまで考えたところで、沙帆はハッとする。
「あっ……私、自分の荷物は」
気付いた沙帆がそう口にした時、正面からここのホテルの制服を着た女性スタッフが「鷹取(たかとり)様!」と近付いてきた。