発つ者記憶に残らず【完】
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"それでは私は戻りますので、ワゴンは部屋の中に置いておいてください。1時間後に入浴のお迎えに参ります"
トーレンはそう言い残すと部屋から出て行き私だけになった。大人しく座って食べるけど、1人で食べるとこんなにも味気なかったかな、と久しぶりの独りに戸惑いを覚えた。
だって、社会人になってからはいつも1人暮らしだったじゃん…テレビはつけっぱなしだったけど。猫を飼ったこともあったけど、孤独ってこんなにも息苦しくなるんだな、と改めて思う。
外は暗いし、そこまで暖かくないし…料理は温かいけど。
温かい料理と言えば、カップラーメンとか、うどんとか、パスタとか…と考えていて麺しか思い出さなくて苦笑した。だって麺、簡単だし。フライパン1つで作れるスパゲッティなんかは特に作っていた。
カルボナーラ、ナポリタン、ミートソース…
ああ、なんだかそういう味が恋しくなってきた。今はフランス料理のフルコースみたいなのを食べている。確かに栄養バランスはいいけど、ハンバーガーとか、ピザとか、フライドチキンとか、そういうジャンクフードも食べたい気分だ。
もしかしたらパーティー料理にあったのかな?と思って後悔した。ケータリングみたいな料理だったらもしかしたら似たような味のものがあったかもしれない。
別の料理を食べながら別の料理の味を想像していると美味しく感じられなくなりそうで、もうそのへんで考えるのをやめた。虚しいだけだし。
綺麗に食べ終えて食器をワゴンに片付けるとやることがなくなった。クッキーを暴食していたからか夕食の量が少なめになっていて食べ終わるまでの時間がいつもより短くなってしまった。
入浴の着替えとかを用意してベッドに腰掛けるとそのまま後ろに倒れた。眠らないようにしようと思っていろいろと考え込む。
あの古代文字みたいなやつ、どこかで見たことがあるんだよなあ。どこだったかな。
うーん、うーん、と唸りながらゴロゴロと転がっていると、ふとピーンと思い出してガバッと勢いよく立ち上がった。
あったあったこれだこれだ!
そして引き出しから手帳を取り出してパラパラと捲り該当するページを開く。そこにはディアンヌの犯した罪についてが書かれているところで、知らない文字だから読めなかったところ。
もちろん今もわかるわけがなく、この文字と一緒だとわかったところで他に何かがわかるわけじゃない。でももしかしたらドラゴンについてもっと詳しい人ならわかるんじゃないかな、と真っ先に思いついたのはレイドの存在。
また彼か……と思いながら手帳を閉じた。必ず彼で行き詰まるのはなぜなのか。
コンコンコン。
3回ノックされて今度は迷わず着替えを持ってドアを開けた。するとビックリした表情をしているトーレンの姿。
「……もっと慎重に開けてください」
「ごめんごめん。なんだか1人だと寂しくって」
「ふっ。そうですか」
ワゴンを廊下に出しながらそう言ってきた彼に素直にそう答えると、満更でもなさそうに軽く笑われて意外だった。
「笑わないでよ」
「すみません、つい」
「トーレンもなかなか何考えてるかわからない人だよね」
「そうでしょうか?」
「まあ…うん」
もっと正直に言おうとして慌てて言うのをやめた。
時々責めるように睨みつけてくることもあれば、人懐っこい態度のときもあるし、私の雰囲気を呼んでそれに見合った行動をしてくれる。
……もしや、アメとムチ?
上手く踊らされているのかと思うと釈然としなかった。