短編集 【善人のフリした悪人】
「メリークリスマス、カナちゃん。」
少女の時が止まってしまった6年前から、
トムはプレゼントと共に手紙を添えるようにした。
励ましの言葉を綴るわけでもなく、
ただ一言
“Merry Christmas to Kana.”
少女がその手紙を読んでいたかは分からない。
リボンに手を掛けることもなく、
処分されていたかもしれない。
それでもトムは、ある願いを込めて、
最後のプレゼントを枕元に置いた。
「カナちゃん。
協会のみんなからは反対の声もあったけど、今年はヴィンテージのギターを持ってきました。
君が負った傷は一生消えることは無いかもしれないけど、
それと同時に君が生まれ持った才能と、
小さな頃から続けてきた努力も一生消えることは無いからね。
決して無理をする必要はないけど、
またいつか君の歌がサンタの国まで届く日を祈って、私はサンタを引退します。
カナちゃん。
私はもうここには来れないけど、
サンタの国の住人全てが、
いつも君に寄り添っているからね。」