ハイド・アンド・シーク


「嫌だったら越智さんの時みたいに断ってます」

なるべく、ハッキリと聞こえるようにいつもより凛と答えた。
心配性な主任がちょっとだけ可愛らしく見えて、そんな姿が愛しくて笑いがこぼれる。

思いやりがありすぎて、この人は疲れないのだろうか。

「心配しすぎですよ、主任。きっと主任に家まで送るって言われたら、会社の女の子はほとんど喜んでお願いすると思いますけど」

「えー?なんで?」

「みんなの憧れですから!いつも優しくて、その人の視点に立って考えてくれて。そんな人なかなかいないです」

「邪念だらけだよ、実は」

「ふふ、それを言うなら私もです」


肩を揺らして笑うと、主任は困ったようななんとも言えない笑みを浮かべた。
自分が同僚にどんな風に見られているかとか、考えたこともないんじゃないかな。人からの評価は気にしないのかもしれない。

若干腑に落ちないような表情をして、彼はポリポリと頬をかいた。

「俺っていい意味で信用されてるってことか」

「誠実さが伝わってるってことですから、喜んでいいところですよ」

「分かった。素直に受け取る」

家に送るからって邪な考えは持っていないという誠実さ。
これは私だけじゃなく、会社の人たちならみんな感じている部分だと思う。

再び訪れる沈黙。

このままどちらかが別れを切り出さなければこうしてずっと話していられるのかな。それとも主任は、私からそう言うのを待っているの?


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