ハイド・アンド・シーク
翌朝、物音が聞こえてパチッと目が覚めた私は、いつの間にか身体にかけられていた毛布を握りしめて飛び起きた。
昨日着ていた服のままだ。
ベッドで寝た記憶がないのに、なぜか移動している。
慌てて寝室を飛び出すと、日曜だというのにスーツを着た有沢主任がサンドイッチのようなものを食べながら「おはよう」と微笑んでいた。
「お、おはようございますっ。あの……昨日は……」
「昨日はごめんね」
顔面蒼白であろう私は、首をブンブンと横に振りながらも昨夜の記憶を辿る。
「昨日、一時間くらいで帰ったんだけど、もう森村さんソファーで寝ちゃってて。寝づらそうだったから勝手にベッドに運んじゃった」
「すみません!私……寝ちゃったんですね」
なんてことをしてしまったんだ、と座り心地のよかったフカフカのソファーをひと睨みした。ソファーにはなんの罪もないのに。
がっくりうなだれる私の顔を、主任は腕時計を身につけながらちょっと申し訳なさそうにのぞき込む。
「昨日のコンペの件で、会社に行かなきゃいけなくなった。そんなに長くかからない会議になると思うけど、森村さんはどうする?」
「えーっ、日曜なのに会議なんですか!?」
「時々あるよ、規模の大きい案件だとね」
じゃあ、主任はいつ休むの?
と、おそらく顔にでかでかと書かれていたんだろう。彼は私の頭に手を乗せて優しく撫でた。
「帰ったら、ちゃんと休むよ」
「じゃあ私、自分の家に帰ります。お休みの邪魔したくないし……」
「帰っちゃうの?」
そんな言い方、しなくても。
胸の奥がぎゅっと締めつけられるような、愛しい気持ちに支配される。
会社では絶対に見ることも聞くこともない、彼の拗ねたような表情と声。
「……待っていても、いいんですか」
「そうしてもらえると嬉しいです」
子供みたいに笑った彼に、私はたまらず抱きついた。