僕に君の愛のカケラをください
仕事にも人にも慣れてきた6月。

葉月はいつものように、会社の裏の公園を通り抜けて、その先のコンビニに昼食を買いに行こうとしていた。

"クゥン、クゥン,,,"

象を型どった滑り台の下の窪みから動物の鳴き声がする。

葉月が覗きこむと、段ボールの中に1匹の母犬と、三匹の生まれたての子犬がいた。

母犬は、出産してすぐに息絶えたのだろうか。ピクリとも動かない。

子犬たちは何も出ない母犬の乳を咥えては、出ないことに腹を立てて鳴いているようだ。

三匹のうち、二匹は体格もよくまだ元気そう。

しかし、こげ茶色の雄犬は明らかに元気がない。

葉月は、急いで会社に電話をして、副社長に午後からのフレックスタイムを申請した。

K&Sは基本、フレキシブルタイム(決められた時間内で仕事をすること)を採用しているが、仕事の内容によっては、従業員が始業・終業時間を決めるフレックスタイムも認めている。

幸い、現在、葉月が抱えている案件はフレックスタイムで対応出来るものばかりだった。

「昼食を買いに出掛けたはずだが、何かあったのか?葉月?」

職員10人足らずの職場なので、役職名は名ばかりで、実質は社長も副社長も下働きをしている。

副社長である坂上蒼真(さかがみそうま)♂29歳も副社長とはいえ、スタッフの勤務管理や実務を行っていた。

「蒼真さん、ちょっとのっぴきならない用事ができまして。夕方までには戻ってその時点から4時間働きます。それでは、よろしくお願いします」

K&Sでは役職名は付けずに、スタッフを名前か名字で呼ぶように社長からお達しが出ているため、葉月は副社長を名前で呼んでいる。

蒼真は初めから葉月を呼び捨てにしていた。

「こら、葉月,,,ちょっと、待て,,,」

蒼真が制するのも聞かず、葉月は慌ててスマホの通話を切った。

そして、会社の警備員室まで戻ると、理由もそこそこに荷物搬送用の台車を借り、一目散に公園に駆けていった。


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