僕に君の愛のカケラをください
公園に着くと、葉月は台車の上に段ボールごと犬達を乗せた。

そして、会社の近くにある保健所に駆けこんだ。

実家の父が農業大学校で獣医師をしている関係で、幼い頃から動物が大好きな葉月は、K&Sの通勤経路上に動物を保護する保健所があることを認識していた。

そして常々、どんな犬猫が保護されているのだろうと気になっていたのだ。

「すみません。この子達、この近くの公園に捨てられていました。母犬は息絶えているようですが、子犬は無事です」

動物保護担当の市役所職員が、受付名簿に名前を書くように促す。

「では子犬の方は5日間預かるけど、飼い主が現れない場合は、その後、動物愛護団体に引き渡すことになるからね。まあ,,,この焦げ茶のチビは元気がないから助からんかも知れんな」

香川と名乗る50代の男性職員は、子犬達を母犬から引き剥がし3匹を同じゲージに入れた。

「この母犬は元が血統書つきみたいだから、最近まで誰かに飼われていたのかもしれないな。妊娠して病気になったから面倒見切れなくて捨てたってところか」

母犬はミニチュアダックスフンドの黒。

最近のペットブームで、安易に動物を飼う者が増えたが、無責任に捨てたり面倒をみない者も多くなり、社会問題化している。

ブリーダーも繁殖させるだけさせて、ろくに面倒をみない悪質な者がいるとニュースになっていた。

「ああ、君、お疲れ様。書類を書いたら帰っていいよ」

香川は、拳を握って唇を噛み締めている葉月を見て、素っ気なく言った。

しかし、動物保護担当者が2名しか配置されていない現状を聞いた葉月は、大きく首を振って

「すみません、少しでよいので子犬の世話を手伝わせていただけませんか?」

と、真剣な顔で香川に迫っていた。

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