僕に君の愛のカケラをください
帰社すると、大亮は、防音個室に籠る葉月のもとに駆け寄った。

蒼真も何気ない素振りを装ってそれについていく。

「あっ、ミルクあげるの?俺にもチャレンジさせてくれないかな?日齢も重ねてるから、葉月ちゃんじゃなくても飲むようになってるかもしれないよ」

大亮が葉月からジロウを受けとる。

大亮の腕の中のジロウは鼻をピクピクさせているが、ミルクを飲もうとしない。

「あー、やっぱだめかー。葉月ちゃんの負担を減らせると思ったのになー、あっ、そうだ。蒼真もやってみろよ」

大亮が"どうせ無理だろうけど"という表情で蒼真を見た。

珍しくムッとした表情で、蒼真がジロウを受け取る。

ジロウは蒼真の臭いを嗅ぐと、なんと哺乳瓶からミルクを飲んだのだ。

「わっ、ジロウ、やっと蒼真さんに心を開いたんだね。ヨシヨシ」

葉月が嬉しそうにジロウの頭を撫でる。

蒼真はあまりの衝撃に、呆然とジロウがミルクを飲んでいるのを見つめている。

「ちぇっ、蒼真にいいとこ持ってかれたな。ジロウもオスの癖にイケメン好きかよ」

と、大亮が面白くなさそうに言った。

「そうじゃありませんよ。ジロウはすでに蒼真さんの優しさに気づいてますから」

「どういうこと?僕が優しくないみたいじゃん」

「いいえ、付き合いの長さが違うんです」

葉月は微笑んで言った。

ミルクこそ与えていなかったが、
この週末、蒼真は、時間を見つけてはジロウの排泄の世話をしたり、抱っこしたりしていたのだ。

葉月の負担を減らしたい一心だったが、ジロウのことはかわいいと思っている。

ジロウにはそんな蒼真の気持ちが少しは伝わっていたのだろうか?

物言わぬ動物の、本能からの行動に蒼真は胸を暖かくした。

「じゃあ、俺もこれからは一緒にいる時間を増やすよ」

ニヤリと笑った大亮が間髪入れずに反応する。

ジロウの気まぐれに感動している場合ではない。

今は大亮の態度が心配だ。

蒼真が葉月を見つめると、"わかってます"というように葉月が頷いて

「それは難しいでしょうね。会社もマンションも監視が厳しいですから」

と笑った。

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