恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
「明彦くんが、あっくんだったなんて、こんな運命的な再会ある?」

 院長が言っても、まだママは半信半疑で、大げさにびっくりしてみせる。

「これを見てください」
 院長が画面に向かって、私のあげたウサギの絵を見せた。
「見覚えがありませんか」

「だから、それはね、毬がお兄ちゃんに描いた絵なのよ。お兄ちゃんっていうのはね」

「ママ、説明しなくてもいいの、院長がお兄ちゃんなんだから」
「あ、そうだった、それ本当なの?」
 ママが自問自答している。

 まだ半信半疑なんだね。それもそうね、いきなり言われても、信じられないかも。

「毬さんのお父様が運ばれた救急病院は、父の総合病院です」
「明彦くんのお父様の話は以前、明彦くんから聞いてたからわかってる。パパが?」

 ママが、たぬきに化かされた顔で、首を傾げたまま固まっているから、思わず動画じゃないのかと画面を振りそうになった。

 さっきは、先に言われちゃうと驚かないって言ったけれど、さすがに驚くよね。

「ふれあい動物園での、絵のお返しと元気づけるために、毬さんにウサギの絵を描いて渡しました」

「温かい気持ちをありがとうね。あのとき毬も、一生懸命に絵の説明をしてたけど、子どもでも混乱しちゃってたらしくて、お兄ちゃんがお兄ちゃんがって言うばかりで。あっ」

 なにかを思いついたように眉を上げ、唇をすぼめたママが、ふううんって顔で、まじまじと携帯の画面を見ている。

「これ」
 ママが動かした携帯の先には、壁に貼られているウサギの絵が、画面いっぱいに映し出された。

 今度は、院長が驚いちゃって動けなくなった。

「味があるウサギさんで可愛いよね」

「それは僕が描いた絵です。こんなに長い年月、今まで、ずっと持っていてくださったんですか」

 頬を緩ませ、首を横に振ったあとは、信じられない顔で画面を凝視している。

「ウサギさん以外に、ごちょごちょ描き足したのは毬なのよ。不思議な絵だけど、毬なりに考えて描いたんだよね」

「 ママ、なにその不思議な絵って」

「そのセンスに感謝しなさいよ。独特の絵だから、明彦くんに再会できたんだから」

 それもそうだね。

「そう、再会よ、なんてロマンチックな再会なの。パパが二人を引き合わせてくれたのね。焦らして二度も再会させるなんて、パパったらやるわね」

 まっすぐな瞳で、画面のママを見ている院長が、携帯に映らない膝の上で、私の手を強く握る。

 またそうして、どきどきさせる。

 ごくんって喉が鳴ったら、隣で画面を見ている院長の口角が、楽しそうに上がった。

「毬。必ず、また巡り逢える。本名もなにも知らなくても縁があればね。明彦くんと毬は、お互いに出逢うべくして出逢った相手だったね」

「ママ、私に男性を紹介しなくてよかった?」

「男性を紹介?」
 ママに問いかけたのに、楽しそうだった院長の眉が膨らみ、真顔に変わり訊いてきた。
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