恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
「母ったらハンガリーに遊びにいらっしゃいって。案内役を紹介するから、留学生のイケメンとハンガリーのイケメン、どっちがいいかって」

「いつの話だ?」
「ふれあい動物園に行った日の夜です」
「なんて答えたんだ?」

「明彦くん、心配ないわ、毬は、きっぱり断った。ねえ、毬」
「うん」

「あのとき、すでに明彦くんのことが好きだったんでしょ、だから」
「なにを言い出すの、そんなこと答えられるわけないじゃない」

「毬ったら、それがもう答え。明彦くん、安心した? もしかしたら紹介してたかも、毬が素直じゃなかったらね、危なかったね」

 ママの声に、院長の目が画面に釘付けになった。
「紹介なんか、やめてくださいよ」

「するわけないでしょ、もう毬の心の中には明彦くんがいたんだから、やめてよ」

 さすが、ママ。私の心の心なんてお見通しだったんだ。

 自然と院長に視線を移すと、院長も私を見つめていて、視線と視線が絡み合った。

「あなたたち、ふれあい動物園に行く前から、お互いに好きだったのね」

「ということか?」
「ということですか?」
 また揃った声に、顔を見合わせて笑った。

「人生は誰にだって一度きり。とことん楽しもう。辛い思い出だけで、毬の人生を壊してしまわないようにね」

「大丈夫です、僕がいますから」
「あっくん、小さなころから言ってたね、変わってない」

 私の面倒を見ながら、いつも言っていたってママの話に、院長が照れくさそう。

 小さなころの話になると、ママは院長のことを自然に、あっくんって呼ぶんだ。

「明彦くんを頼りにしてる。毬は毬で、明彦くんと幸せになるのよ」
 院長と二人で幸せになる。ママは?

「お父さんが死んでから、ママの幸せは?」
「辛く哀しい想いを、パパにさせなかったことが、私の幸せ」

「院長も、きっとそう言ってくれる。人に対する深い愛情がママと似てる、優しいね」

「当たり前でしょ、パパを愛してるから」
 あまりにはっきり言うから、こっちが照れちゃいそう。

「パパは、私と毬を愛してくれた。それに、毬に明彦くんを引き合わせてくれたのはパパだもん、パパって人を見る目があるわ。第一に、なんたってママを妻に選んだ人だし」

 両手で頬を包み込み小首を傾げ、ニコッと満開のひまわりみたいな、眩しい笑顔を浮かべる。

 院長が画面から見えないところで、さらさらとメモに走り書きをした。
「ママ、院」
 横から肘を突っつかれ制止された。

「院長が、お母様は少女みたいに可愛らしいってメモに書いたの」
「すみません」

 耳まで真っ赤になって俯く院長が、照れくさそうに鼻柱を撫でた。

「ありがとう、嬉しいわ。ポジティブな言葉だから、これからはどんどん言ってね。あとで、毬を責めないであげて」
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