恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
「心と体が収まりつかないだろう、保科 毬さん」
あっという間に私を、ひょいと抱き上げ歩き始める。
「保科 毬?」
「どうした、目を白黒させて。院長夫人もいいな、どちらも悪くない響きだ」
最高に幸せ。これ以上に満足することなんて、できっこないって院長の顔に書いてある。
満面の笑みが少しずつ近づき、柔らかな唇が優しく頬にキスを降り注ぐ。
「まだ甘さが、ほんのりと頬に残っている」
幸せの涙は甘いんだもん。
「どこに行くんですか」
「俺たちの新居の案内だ」
下がった目尻と上がった口角が、くっついちゃう微笑みで、私の瞳を覗き込む。
幸せそうに微笑むから、私の頬も目も口も嬉しいよって微笑む。
「新居、私たちの」
「ああ、近い将来そうなる、必ずだ。まだ五階でさえ、川瀬が踏み入れていない場所がある」
「まだ、私が知らない部屋があるんですか、五階に?」
有無を言わさぬ強引な言葉に、嬉しさで頬が緩み、心の底から込み上げる喜びで、胸がいっぱい。
「今いる六階は、川瀬にとっては未知のエリアだ、案内する甲斐がある」
院長は、診察室に向かうときみたいに、意気揚々とゆっくりと歩を進める。
まっすぐに前を向く瞳は輝き、水晶のように美しい光りを放つ。
抑えきれない喜びに満ち溢れている、端正な横顔をじっと仰ぎ見て、抱き上げられている熱い滑らかな首筋に顔を預けた。
「院長に恋したことは、私の人生で二番目に素敵なことです」
「二番目?」
ちょっぴり不満げに、片側の眉をしかめる院長が、私の答えを待っているみたい。
「一番目は?」
「院長と巡り逢えたことです」
私の答えに、院長が嬉しさに動かされたように、反射的に頬と口もとを緩ませた。
「知っていたか? 川瀬は、俺に恋をして結婚するために、この世に生を受けたってことを」
耳もとに、低く優しい穏やかな声が、直に届く。
「この院長のぬくもりは、初めての気がしない」
思わず独り言が漏れた。
院長に抱き上げられていて、お互いが密着する体の感覚に覚えがある。
「ハッピーのときって......」
一生懸命に、記憶を呼び覚ます。
「ハッピーのときって......本当に、私は歩いてましたか?」
「やっと、気づいたか」
やっぱり、自然に体が記憶していたんだ。
「院長の嘘つき」
「それが抱き上げて、ベッドに連れて行ってくれた人への言葉か」
幸せそうに、お姫さま抱っこをする首すじに顔を預けた。
「重いですよね?」
「いいや、ちっとも」
「ちっとも?」
「ああ、ちっともだ」
包み込んでくれる温かな感覚は、ハッピーのときよりも、ずっとずっと前から、私の体が記憶していた。
あのときから院長は、私に安心感を与えてくれ、無上の幸せをもたらしてくれていた。
『重くない。喜んでる顔が見たいから、僕が抱っこする』
そう言った、あのころのまま。
──これまでも
これからも──

あっという間に私を、ひょいと抱き上げ歩き始める。
「保科 毬?」
「どうした、目を白黒させて。院長夫人もいいな、どちらも悪くない響きだ」
最高に幸せ。これ以上に満足することなんて、できっこないって院長の顔に書いてある。
満面の笑みが少しずつ近づき、柔らかな唇が優しく頬にキスを降り注ぐ。
「まだ甘さが、ほんのりと頬に残っている」
幸せの涙は甘いんだもん。
「どこに行くんですか」
「俺たちの新居の案内だ」
下がった目尻と上がった口角が、くっついちゃう微笑みで、私の瞳を覗き込む。
幸せそうに微笑むから、私の頬も目も口も嬉しいよって微笑む。
「新居、私たちの」
「ああ、近い将来そうなる、必ずだ。まだ五階でさえ、川瀬が踏み入れていない場所がある」
「まだ、私が知らない部屋があるんですか、五階に?」
有無を言わさぬ強引な言葉に、嬉しさで頬が緩み、心の底から込み上げる喜びで、胸がいっぱい。
「今いる六階は、川瀬にとっては未知のエリアだ、案内する甲斐がある」
院長は、診察室に向かうときみたいに、意気揚々とゆっくりと歩を進める。
まっすぐに前を向く瞳は輝き、水晶のように美しい光りを放つ。
抑えきれない喜びに満ち溢れている、端正な横顔をじっと仰ぎ見て、抱き上げられている熱い滑らかな首筋に顔を預けた。
「院長に恋したことは、私の人生で二番目に素敵なことです」
「二番目?」
ちょっぴり不満げに、片側の眉をしかめる院長が、私の答えを待っているみたい。
「一番目は?」
「院長と巡り逢えたことです」
私の答えに、院長が嬉しさに動かされたように、反射的に頬と口もとを緩ませた。
「知っていたか? 川瀬は、俺に恋をして結婚するために、この世に生を受けたってことを」
耳もとに、低く優しい穏やかな声が、直に届く。
「この院長のぬくもりは、初めての気がしない」
思わず独り言が漏れた。
院長に抱き上げられていて、お互いが密着する体の感覚に覚えがある。
「ハッピーのときって......」
一生懸命に、記憶を呼び覚ます。
「ハッピーのときって......本当に、私は歩いてましたか?」
「やっと、気づいたか」
やっぱり、自然に体が記憶していたんだ。
「院長の嘘つき」
「それが抱き上げて、ベッドに連れて行ってくれた人への言葉か」
幸せそうに、お姫さま抱っこをする首すじに顔を預けた。
「重いですよね?」
「いいや、ちっとも」
「ちっとも?」
「ああ、ちっともだ」
包み込んでくれる温かな感覚は、ハッピーのときよりも、ずっとずっと前から、私の体が記憶していた。
あのときから院長は、私に安心感を与えてくれ、無上の幸せをもたらしてくれていた。
『重くない。喜んでる顔が見たいから、僕が抱っこする』
そう言った、あのころのまま。
──これまでも
これからも──



