イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる


「ターンはもっと軽く。首がふらふらしていますよ。もっと手先まで意識を集中して」

 今日は、ワルツのレッスンだ。

 一応、アディも社交界にデビューするときに、一通りのダンスは覚えた。だがその後、ろくに踊る機会もなかったために、久しぶりにダンスをしてみれば足取りも立ち姿もかなりおぼつかなくなっていた。

「足元ばかりみない。胸を張りなさい」

 ルースの容赦ない声が頭上から落ちてくる。アディは、できるだけ胸を張るとステップを続けた。

「そうです。もっとこちらに体を預けて」

 そう言って、ルースはアディを支えてターンをした。

 もともとワルツは、密着度の高いダンスだ。執事とはいえ、こんな風に男性と接触したことのないアディは、目の前にあるルースの体を直視できず、視線の置き所がない。視線をさまよわせて、アディは他の二人を伺った。
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