イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「ワルツは、相手との呼吸が大事になるのです。他の男など見ないで……私から、目を逸らさないでください」

 ステップの指導をする時とはまた違う低い声に、アディはそっと視線をあげた。すると、笑みを含んで見下ろすルースと目があう。

「ふふ。暑いのですか?」

「え? いえ……」

「では、そのようにお顔が色づいているのは、私の見間違いですね」

(絶対、わかってやってる!)

 からかわれているのがわかっても、アディには言い返すすべもない。その間にもルースは、巧みにアディをリードしてくるくると舞うように軽やかに踊る。くやしいが、ルースのワルツは文句のつけようもないほど見事だった。さすがは王太子の筆頭執事だと、アディでさえ感心せずにはいられない。
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