イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
今回の王太子妃候補は三人だが、王妃に選ばれるのは一人だけだ。誰も口にはしないが、以前の王宮の様子を考えれば、選ばれなかった二人は妾妃となってこの王宮に留まることになるかもしれない。
 妾妃となっても王家が後ろ盾につくことには変りないので、それはそれでアディは構わなかったが……もし、王太子が今の国王のようにたった一人を大切にしてくれる人だったら。

 もしそうだったら、たとえ自分が王太子妃に選ばれなくても、アディは少しだけ嬉しい、と思った。

  ☆

「こう……こうして……あっ」

 ターンしようとした足元がからまり、アディは無様に転んでしまった。

「痛あ……」

 すばやくあたりを見回して月明かりの中に誰の姿も見えないことを確認すると、アディはため息をついた。
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