イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「うまくならないなあ……」

 ターンの時は、どうしても相手に体重を預けなければいけない部分があり、ひとりでやるとそこをうまく回ることができない。やはりそこはどうしても相手が必要で、アディは何度も転びかけていた。

「ああ、もうやめた」

 座り込んだまま、アディは空を見上げる。たよりない細い月がぼんやりと目に入った。

 どこか遠くで、夜の虫が鳴いている。

 衛兵は起きているだろうが、人々が寝静まった静かな夜に、アディはそっと目を閉じた。

 なんだか……すこし、つかれちゃったかな……


 がさり。


 いきなり背後で音がして、アディは飛び上がった。

「だだだだだ誰?!」

 あわてて振り向くと、立木の向こうに若い男がひとり、立っていた。向こうも驚いたような顔をしている。
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