イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「君こそ、誰?」

「え……えと、私はアディよ。あなたは?」

 アディは間抜けな答えを返す。いきなりのことだったので、うっかりご令嬢の仮面をかぶるのを忘れて素で答えてしまった。

「そう。ここで何をしているの? アディ」

 アディの問いに答えることなく、はんなりと笑みを浮かべながら青年は立木の間から出てくる。

「ダンスの練習をしてたの」

「ダンス。得意なの?」

「じゃないから、練習しているのよ。あの……」

「それもそうだね。ダンス好きなの?」

 次々に質問を浴びせられて、アディは口を挟むすきがなかった。おそらく、答えるつもりがないのだろう。なんとなくそう思ったアディは、それ以上聞くのをやめた。

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