イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「アディは、戻りたくない?」

「戻るって、どこへ?」

「ロザーナに」

 アディが顔をあげると、にこにこと笑っているフィルがいた。けれど、その瞳だけは笑んではいない。不思議な表情で、フィルが言った。

「ねえ。やっぱり、王太子妃になりたい?」

 アディ、まじまじとフィルの顔を見つめる。

 フィルはアディが王太子妃候補としてここにいることを知っている。アディがこの王宮に着いた時にはかなりの人数の出迎えを受けたので、フィルもその中にいたのかもしれない。

「なりたいわ」

「なんで?」

 アディは、真っ青な空を見上げた。

「あまり愉快な話じゃないから、聞いたらすぐに忘れてくれる?」

「いいよ。覚えることは苦手だけど、忘れるのは得意だ」

「あら、私と同じね」

 ひとしきり二人で笑うと、アディは王宮に来て初めて自分の気持ちを吐き出すことにした。

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