イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「何を読んでいたの?」

「これ」

 渡された本を開いてみれば、それはキリリシア王国の地理の本だった。各地の特徴や産業、名産まで細かく載っている。最初のところには、大きな地図までついていた。

 その中にアディは、懐かしい名前を見つけた。

「……ロザーナ」

 たった二週間しか過ぎていないのに、そこにいたのはもうずいぶんと昔のことのように感じる。

 アディは、街を示すその名前を指さした。

「ここ、私のいた街なの。こうしてみると、キリノアからはロザーナまではすぐなのにね」

 地図の上では、二つの街はアディの人差し指の長さほどしかない。だが実際は、馬車で三日はかかる距離だ。
< 155 / 302 >

この作品をシェア

pagetop