イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
フィルは少しだけ笑んで、肩をすくめた。

「君だって、今はまだ王太子妃候補だからそれほど心配はないだろうけれど、実際に王太子妃となれば、命の危険は十分にあるんだ」

 青ざめたアディを見て、フィルは、ふ、と息を吐く。

「王太子殿下が信じられる人間は、この王宮の中でそれほど多くない。君も、ここにいるなら誰も信じない方がいい」

 アディは、天蓋の向こうに見えた王太子の影を思い出す。

 数少ない使用人たちとこの離宮でひっそりと暮らす孤独な王太子。もう長くない、と世間では言われているのに、それでも命を狙われなければならないのだろうか。

「何をしているのです?」

 ふいに低い声が背後からして、アディとフィルが振り向く。するとそこには、ルースが立っていた。
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