イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「何かあったのかしら」

 その後ろ姿を見ながら呟くマルセラに、かっとアディは頬が熱くなるのを感じた。

 本当に、何だったのだろう、とアディも思う。

 ルースに抱きしめられた時の胸の熱さや教えられた彼の匂いは、いまだアディの動悸を落ち着かせてはくれない。

「あの、ルースって奥さんとかいらっしゃらないのですか?」

 唐突に聞いたアディにマルセラは目を丸くするが、うっすらと頬を染めたアディを見て何かを察したらしく、柔らかく微笑む。笑うと目元に寄るしわが彼女の人の良さを表しているようだ。

「独身ですし、私の知る限り想い合うお方もおられませんよ」

「そうですか……」

 何故自分がそんなことを聞いたのかアディにはわかっていなかったが、その言葉には少しだけ安堵を覚えた。そんな複雑な気分を味わったのは、アディは初めてだった。

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