イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
気をつけて、と昨日フィルに言われた時は、他人事のように聞いていた。けれど今はまざまざと実感できる。この王宮に、自分の近くに、悪意を持って誰かを害そうとするものがいることを。

 怖い、という感情を、アディはこの王宮に来てから初めて持った。

 ふいに、アディの背中がふわりと温かくなった。

「怖い思いをさせてしまい、申し訳ありません」

 ルースは、自分の重みをアディに預けるように、座ったままの彼女を背中から抱きしめていた。矢からアディを守ろうとした激しい勢いではなく、安心させるようにそうっと、温かく。

 フィルは何も言わないで外を見ている。
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