イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
身分に縛られている彼に、その垣根を越えて彼女をさらうことなどできないと、エレオノーラは本当は知っていた。それでも、さらってほしかった。

 幼い日、泣いていた自分に黙って花を摘んでくれた彼に心を奪われた理由は、彼女自身もいまだにわかっていない。

 ただ、彼のあの時の微笑みを、死ぬまで隣で見ていたいと思った。

 ただそれだけで、十年以上も彼を慕ってきた。彼だけを見てきた自分の気持ちを、彼女は間違いだったとは思っていない。それは、自分で決めたことだから。

 そして、彼のもとを去ると決めたのも。

 ふり向かないエレオノーラの背中に、その時のブライアンはついに声をかけることができなかった。

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「自信が、なかったんだ」

 うろたえるエレオノーラを見ながら、ブライアンははっきりと言った。普段寡黙な彼には珍しいことだ。
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