イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「アデライードは、どなたかそう想う方はいらっしゃらなかったの?」

 一瞬だけ、アディの胸に一人の影が浮かんだが、アディは首を振ってその影を追い払った。

「……多分、ない、と」

「そうなの」

 どこか遠い目をするポーレットに、アディはひっかかるものを感じる。

「もしかして、ポーレットにはそういう人がいたの?」

 われに返ったように、ポーレットは机に上にあったカップに手をのばす。その頬がほんのりと赤く色づいている。

「昔の話よ」

「好きな人? どんな人なの?」

 あまりそういう話題を人としたことのないアディは、興味津々でポーレットに聞いた。ポーレットは、手にしたカップのお茶を飲まないまま、また机の上に戻す。
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