イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「……そうね。子供のような人……わがままで、自分勝手で……ずるくて、でも、優しい人……」

 アディは首をひねる。

 誰かを想う気持ちがいまいちわからないアディだが、そこに並べられた条件の人間を想像すると、恋をする以前に、あまり人としても惹かれるものはなさそうだ。

「ポーレットはそんな人がいいの?」

 不思議そうにアディに言われて、ポーレットはくすりと笑った。

「おかしいわよね。でも、本当に、好きなのよ」

 その言葉が過去形ではないということに気づいて、アディは口をつぐんだ。

 きっとポーレットにも、なにか複雑な過去があるに違いない。けれど、憂いを帯びた表情の彼女に、それ以上は聞いてはいけない気がした。
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