イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「言いたい奴には言わせておけばいい。その分、実力で黙らせてやる」

 その言葉通り、公に王太子として出るようになったテオフィルスは、今までの遅れを取り戻すかのように、国王の補佐として精力的に政務をこなしていた。

 アディは、なんとかさりげなくテオの腕を振り払おうとするが、テオはその手を離さない。

「それとこれとは話が別です!」

「正式な夫婦になったんだ。恥ずかしがることもないだろう? なんだったらもっと……」

「失礼します。殿下」

 テオが調子に乗ってさらにアディをからかおうとした時、背後からやってきたフィルが硬い声をかけた。身代わりを務める必要のなくなったフィルは、今はもう元の執事としての生活に戻ってテオに付き従っている。

 フィルの声にふり向いてその指し示す方に視線をむけたテオの顔が、やにわに緊張した。
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