イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「アディ」

 耳元に口を寄せると、テオは小さく言った。

「君に紹介したい人がいる。来てくれ」

「はい」

 雰囲気の変わった夫の声を不思議に思いつつ、アディはその視線を追う。すると、おどおどとあたりを見回しながら、やはり緊張した面持ちの青年がこちらへ向かってくるところだった。二人の視線に気づいて、青年はなんとか笑顔らしきものを作る。

「やあ。結婚、おめでとう。テオ」

「ありがとう。君も元気そうでなによりだ、ウィン」

 その名前を聞いて、アディも緊張する。

 では、この青年がウィン――ウィンフレッド・ケンドール。テオフィルスのいとこだ。
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