イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
ウィンの話を黙って聞いていたテオは、小さく言った。
「彼女を、このままにしておくのか」
 ウィンは、顔をあげると微かに笑んだ。

「まさか。さすがに僕も、腹をくくらなけりゃならないだろう」
 それまでの態度とは違って、力強くウィンは言った。その彼を、テオは目を細めて見た。
「お前もいずれケンドール侯爵として家を継ぐんだろ。しっかりしろよ」
「そっちこそ」
 そうしてアディに軽く挨拶をすると、ウィンは二人から離れていった。

「フィル」
 テオが、小さく呼ぶ。
「頼んだぞ」
 その一言だけで通じたらしく、フィルは執事らしくひかえめに笑みを返す。
「かしこまりました」

「なんですの?」
 アディが、小さく首をかしげた。するとフィルは、器用に片目を閉じて、人差し指を自分の口元にあてる。
「男同士の秘密。アディには教えてあげない」
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