溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
美術館と言われたからどんな高尚な絵画があるのかと思っていたら、いわゆる現代アートをメインにしたギャラリーだった。
モネもゴッホもよくわからない私は、緊張が解けて一気に興味が湧いてくる。


「課長は、こういうところによく来られたりするんですか?」

「いや、そんなことはない。知り合いにチケットをもらったんだが、こういうの好きそうだと思って」

「……女性全般の話ですか?」


一瞬、勘繰らなくてもいいことを考えてしまい、考えるよりも先に口をついて出た言葉が落ちた。
ハッとして慌てて謝罪しようとした直後、課長に頭をコツンと叩かれた。


「ばか。莉緒の話だよ」


フッと微笑んだ甘やかな面持ちで、そんなことを言われて。
単純な私の胸の奥は、いとも簡単に大きく跳ね上がる。


ちっとも痛くなかった頭は穂積課長に触れられたせいで熱を帯びてしまいそうで、必死に気づかない振りをしながら平静を装う。
それなのに、「楽しみですね!」と誤魔化すつもりで紡いだ声が裏返ったから、課長にクッと笑われるはめになってしまった。

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