溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
『別に謝らなくていい。時間はちゃんと約束していなかったからな』

「時間?」


電話口から聞こえて来た言葉に小首を傾げると、『覚えていないのか?』と返って来た。
その声はほんの少しだけ不機嫌に聞こえて、ドキリと心臓が音を立てたような気がした。


『昨日の夜、別れる前に約束しただろ?』


呆れた声音に叱られているような気持ちになってしまいながらも、慌てて記憶を辿る。
その直後に脳内に蘇って来たのは、『一献』でのこと。


『ちゃんと思い出したか? 昨日、キスしたこと』

「……っ!」


思わず叫び出しそうだったのをなんとか堪えたけれど、穂積課長が追い打ちをかけるように低い声音で囁いたから、息をのみながらスマホを落としてしまいそうになった。
クッと喉で笑った課長の声が、鼓膜をふわりと撫でる。


そうだった……! 私、課長と……!


数分前まで頭の片隅にもなかったのに、今はもう鮮明な映像が脳内でグルグルと回っている。
耳まで帯びた熱が、昨夜の出来事は現実なんだということを雄弁に語っていた。

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