極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
目から鱗と言わんばかりの私に、篠原が眉を寄せながら続ける。


「だいたい、お前みたいにクソがつくほどの生真面目な女が、あんなにもすんなりと男とセックスできるか。本気で同意する気がないなら、俺を蹴飛ばしてでも逃げるだろうが」


言われてみれば、そんな気がしなくもない。
だけど……彼に言われて“そんな気がしてしまう”自分に、なんとも言えない気持ちが込み上げてくる。


「そんなの先生の言い訳です」

「……本当に強情だな」

「先生にだけは言われたくありません」


ムッとしながら言い返すと、大きなため息を漏らされてしまった。


「まったく……。こっちはお前が男と別れるのを、ずっと待ってたっていうのに……」


そのあまりにも自己中心的過ぎる発言に、心底呆れて眉を寄せる。


「……先生って、本当に最低以上に最低な人間なんですね。私が不幸になるのが、そんなに待ち遠しかったんですか?」

「はぁっ⁉︎」


私の質問に素っ頓狂な声を上げた篠原が、思い切り訝しげな顔をした。


「本当に最低です」

「……お前のそれって、本気で言ってるわけ?」

「はい? それって、どれですか?」


私が眉を寄せたまま返すと、彼はうなだれながら再びため息をついた。

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