極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜【コミカライズ配信中】
不意に篠原の腕の中にいることを思い出した私は、体を包む彼の腕を強引に退けた。すると、彼に不機嫌な顔で見つめられて、今度はハッとする。


「げっ、原稿っ‼︎」


本気で叫んだ私に、篠原は指で耳を塞ぎながら眉を寄せた。


「先生、今すぐ原稿を書いてくださいっ‼︎ 今日こそちゃんと受け取って帰らないと、編集長になにを言われるかっ……!」


だけど……本気で慌てふためく私に返ってきたのは、ありえない言葉だった。


「……原稿なら、一週間前に出来上がってるけど」


ケロッと吐いた彼に、私は自分の耳を疑いながら目を見開く。


「……ちょっ、ちょっと待ってください……!」


あまりにも信じ難い言葉に、頭の中が整理できない。


「……私、一週間前にも伺いましたよね?」

「あぁ」

「その時、先生は『まだできてない』っておっしゃいましたよね?」

「言ったな」

「その日からも毎日伺ってましたけど、先生はずっと『原稿はできてない』っておっしゃってましたよね?」

「言ってたな」

「でも、今……たしか、『一週間前に出来上がってる』って聞こえた気が……」

「あぁ、そうだな」


悪びれることもなくしれっと答えた篠原に、目眩を覚えながらも唖然としてしまった。

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