極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜【コミカライズ配信中】
バッグの中には、やっと手に入った篠原の原稿。
そして、彼が次に生み出す作品の“卵”。


人としては暴君そのもので、その振る舞いにムカついて堪らないのに……。篠原の次の作品に思いを馳せてワクワクしている私は、もしかしたら彼の作品を誰よりも楽しみにしているのかもしれない。


悔しいけれど、“篠原櫂”とはそういう男なのだ。


一度でもその世界観の虜になると、もう逃げられない。
篠原の描く世界を、何度でも覗いてみたくなる。


『ヒロインのモデルにしたい女がいるから』


彼が紡いだ言葉を思い出すと少しだけ切なくなってしまうけれど、ゆっくりと息を吐いてから急いで駅に向かった。


定時を過ぎたオフィスに戻ると、社員たちはまだ慌ただしく働いていた。締切前後のオフィスは、いつも目まぐるしいのだ。


昨日はネチネチと嫌味を言い続けていた編集長は、この茶封筒の中身を見たらどんな表情をするだろう。


シワだらけの目尻を下げて、たちまち上機嫌になるのか……。それとも戻るのが遅かったことに、やっぱり嫌味のひとつくらいはつけ加えられるのか……。


できれば、今日は前者だけであって欲しい。
そう願いながら違和感のある服装を隠すためにバッグを胸元で抱えたあと、編集長のデスクの前に立って原稿と茶封筒を差し出した。


「編集長──」

< 36 / 134 >

この作品をシェア

pagetop