極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
篠原自身への憧れは消えてしまっても、彼の書く作品の魅力には取りつかれたままで、そのすべてを読み込んだ。


だけど……。
篠原の作品の中に、私のような主人公はひとりもいない。


可愛くもなく、可愛いげもない。
そんな私に与えられるのは、せいぜい主人公を引き立てるための脇役くらいだろう。


それもほとんど出番のない、ほんのワンシーンを飾るだけの脇役の中の脇役。
きっと“つまらない女”である私には、そのくらいの役がお似合いに違いない。


幼稚園の演劇会では、たしか“りんごの木”の役だった。
人間ですらなくて、もちろん台詞もなかったけれど……。当時の私にはまだ悩みなんかなくて、出演シーンが多いというだけで誇らしさすら感じていたような気がする。


小学二年生の時の学芸会では、村人Cの役だった。
村人Aですらなくて、台詞はたったのひと言だけだったのに……。幼稚園の時とは違って台詞をもらえたことが、少しだけ嬉しかった。


中学三年生の文化祭では、くじ引きで小道具になった。
もはや、舞台にすら立てなかったけれど、その頃にはもう役をもらいたいなんて思っていなくて、ホッとしていたような気がする。


脇役にしかなれないって思ったけど、その頃にはもう、舞台上の脇役ですらなかったってことよね……。

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