極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「お気に入りだとは思いませんが、パーティーには出席していただけるようにきちんと交渉します」

「頼むぞ。なんと言っても、主演女優たっての希望なんだからな」

「はい」


貼りつけたままの笑顔に限界を感じながら頭を下げ、ようやく自分のデスクに戻れた。


今日は仕事で篠原に会う予定はないけれど、帰りに足を運ぼうと決めて彼にメールを打つ。
用件だけを並べて送信し、ため息をついた。


プライベートで仕事の話をしたくはないけれど、今回ばかりは時間がないから背に腹は替えられない。
篠原からの返事はなかったけれど、とりあえず押しかけることにして急いで仕事を片付け、彼のマンションに向かった。


マンションの自動ドアの前で、ルームナンバーを押す。


『玄関の鍵は開けてある』


途端に不機嫌な声が聞こえたかと思うと、すぐにプツリとモニターを切る音が鳴った。
ため息混じりにエレベーターに向かい、今日はなにに対して機嫌が悪いのかと考える。


だけど……残念ながら、篠原の部屋に着くまでに明確な答えを導き出すことはできなかった。


「お邪魔します。……先生?」


電気の点いているリビングのドアを開け、ゆっくりと顔を覗かせる。


「遅い」


ソファーで横になっていた彼は、予想通りの仏頂面をしていた。

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