極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「……わかったよ」


ため息混じりに吐き出された言葉に胸を撫で下ろした反面、申し訳なく思ってしまう。


それは、担当者としてなのか、ファンとしてなのか、はたまた私情なのか……。
恐らく最後の答えがもっとも近いのだろうけれど、仕事に私情を挟むのは私のポリシーに反する。


「ありがとうございます」


自分自身にそれを言い聞かせるように、あくまで事務的に頭を下げたけれど──。

「ただし、条件がある」

ここぞとばかりに、そんな言葉がつけ加えられた。


嫌な予感を抱きながらも篠原の機嫌を損ねるわけにはいかなくて、引き攣りそうな顔で笑みを繕った。


「……なんでしょう?」


暴君の条件が生易しいものではないのは、答えを聞く前から明白。彼の無理難題には免疫がついてきたものの、なにを提示されるのかと身構えた。


「お前も泊まっていけ」

「……はい?」

「ホテルだよ。パーティーのあと、お前も泊まれよ」


予想よりも遥かに優しい条件にホッとしたけれど、隙を見せたらどんな難題がつけ足されるかわからない。
そんな気持ちから安堵を隠し、ひとつの不安材料を口にした。


「私は、出席できないと思いますけど……」


著名人が出席するパーティーに、いち社員が出られるわけがないのだ。

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