一期一会
すると中原君は突然立ち上がった。
どうしたのだろうと挙動を窺っていると、彼はまさかの私の隣に腰掛けた。


「これなら向き同じだし、見やすいから、解り易く説明してもらえる」

真横にいる彼は私にニッコリと微笑んだ。


えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!


私の心臓は一気に心拍数MAX。


「どの公式だっけ?」

私は心臓バクバクなのに、中原君は平然と訊いてくる。

「あ!えっと、これは……」

私は平静を保とうと聞かれた問題を教える。

彼との距離は十センチ程。
少し動かしたら肘がぶつかりそうだ。

その距離のせいで心臓の音が鼓膜にまで響いている。

私、ちゃんと説明出来ているだろうか?
自分で喋っている言葉も分からなくなってきた。


「お。なるほど、解り易い。さんきゅー」

中原君は微笑んでお礼を言った後、ノートに顔を戻してまた問題を解き始めた。
私はそんな中原君を見ながら思わず固まる。


席、戻らないの?
ずっと私の真横に居るの?


私は周りを見渡した。
周りは向かい合って座り、静かに下を向いて集中している。


こんな風に真横に座って勉強している人、誰も居ませんよ!?


私は顔を教科書に戻す。




…………いやいやいや!勉強できるかー!!
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